考え方を考えよう
循研の使命
循研の使命の1つは、将来の医学・医療を担う人材を世の中に送り出すことです。循研メンバーの多くは医師で、卒業後6~7年で循研での研究を始めます。この時期に自分の考え方を見直し、論理的に考えて仲間と協力する力を身につけることには、大きな意味があります。
卒業後6〜7年というと、医師に必要な知識や技術を身に付け、自分の力でひととおりの診療ができるようになる時期です。そして、医師としてできることが拡がると同時にチーム医療の中心となることを期待され、責任が重くなってくる時期でもあります。言い換えれば、目の前の患者さえ見ていれば良い時期は過ぎ、患者や医療者を取り巻く状況にまで目を配り積極的に関わることが求められてくる時期です。
この時期までの医師は、目の前の患者さんを診断し治療することに必死で、必要な知識や技術を吸収することに全力を注ぎます。つまりこの頃までは、診療における「正解」を実施するために足りない知識や能力を身につける時期だったと言うことができます。
卒業後6〜7年以降の医師には、それまでに身につけた知識や技術など全ての力を適切に組み合わせ、また、様々な知識や技術を持った関係者と協力して問題を解決することが求められます。そこで直面する問題の多くは複数の問題が絡み合ったものです。問題の組み合わせは無数にあるため、あらかじめ準備された「正解」はありません。表面的な問題の陰に本質的な問題が隠れていることもしばしばあるため、隠れた問題を見つけ出す能力も求められます。
医師が成長し続け、蓄えた知識や技術を使うためには、問題の本質を見つけ出し、様々な方法を組み合わせた適切な解決方法を考え、それを実行する力が求められます。そのためには、関係者と問題を共有し協力する力も必要です。このような総合的な力を端的に表す言葉はまだ定まっておらず、課題発見・解決力、職務遂行能力、コンピテンシーなど、様々な表現があります。ここでは、「課題発見・解決力」としておきます。
循研の役割
循研は課題発見・解決力を身につける場です。そこで循研メンバーが身に付ける力は一生の財産であり、将来、夢や理想を実現しようとする時に、ある時は強力な武器として、ある時は仲間と力を合わせるための共通言語として役立つことでしょう。
医師の課題発見・解決力は臨床の場で身につければ良さそうなものです。しかし、臨床経験は知識を身につけ技術を磨くには良い方法ですが、課題発見・解決力のトレーニングには必ずしも最適ではありません。1つには、臨床現場で出会う問題はあまりに複雑なためです。臨床では、例え最適ではない診断や治療をしても良好な経過をたどることもあれば、適切な治療でも病勢のコントロールが困難なこともあります。また、チーム医療では、結果のどこまでが自分の力でどこからが他の人の力によるものか区別できません。臨床では解決すべき問題が次々に降りかかってくるので、1つの問題にかける時間が限られ、次にどんな問題が起こるか簡単には予想できません。トレーニングには試行錯誤がつきものですが、臨床では誤りの許容範囲がとても狭いこともトレーニングを難しくします。つまり、試してみることや、試した結果を判断することが、臨床では簡単ではありません。
研究ではこれらの障害はありません。研究は解決すべき課題を分析し明確にすることからスタートします。可能な限り不確定要素を除いた条件で検討するため、研究者がしたことと結果の関連が明確ですし、研究者が何もしなければ研究は全く進まず、逆に何かすれば必ず結果が出ます(予測した結果が出るかどうかは別問題です)。研究では試行錯誤が奨励されるので、自分の力を試す機会が沢山あります。問題が勝手に起こることはなく自分で設定するので、重要な問題を発見する力が鍛えられ、1つの問題に時間をかけて取り組むことができます。
研究には問題発見・解決力のトレーニングに適した条件がそろっています。動物モデル、培養細胞などを使う基礎系の研究は実験的介入も容易で、問題発見・解決力のトレーニングそのものと言えます。このような研究の特性を生かして、循研メンバーは日々の研究生活の中で問題発見・解決力を鍛えています。
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