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循研ピアレビューの歴史(2016年6月14日)
この記事を書いている日の翌日(2016年6月15日)から、循研ピアレビュー2016が始まります。手探りだった第1回から循研ピアレビューは少しずつ姿を変え、今年は第8回となります。一度、その経緯を振り返ってみようと思います。
もともと循研では若手全員が科研費を申請するのが伝統でした。ほとんどの若手にとって科研申請は初めての経験ですが、先輩たちをお手本に一生懸命書いて全国平均の採択率は達成できていました(2割ちょっと)。しかし、せっかくならもっと意義のあるものにしたいと考えたのが循研ピアレビューの始まりです。そもそも科研とは何で、申請することにどんな意味があるのかをみんなで考えようと思ったのです。以下、プロジェクト名は課題提供者の頭文字です。
初めての循研ピアレビューの半分は科研費制度のガイダンスでした。制度の要や審査基準を説明して、研究計画書を書く意味について私(青木)の考えを話しました。そして、O君が提供してくれた申請書(残念ながらその年は不採択)の問題点をみんなで話し合いました。実りある熱心な話し合いはできたのですが、ディスカッションが散漫になりがちで、今振り返ると結論も少しあやふやだったように思います。
ディスカッションが散漫にならないように科研審査基準に沿った観点を5つ決めました(問題点の明示、リアリティ、この人でなければ、お得感、読みやすさ)。ある程度ポイントは絞れて申請書を改善すべき点も見えたのですが、どう改善すれば良いのかはよく分かりませんでした。
観点をさらに絞り、重要性、独創性、リアリティ、読みやすさの4つにしました。4つの観点をホワイトボードの4隅に書いて問題点を整理するスタイルはこの年に始まりました。申請書の問題点は整理できたのですが、それを改善するだけで良い申請書になるのかという疑問が残りました。
観点の統一だけではなく、ディスカッションの方向性を揃えることにしました。そのために、1日目は問題点の整理、2日目は改善方法のアイディア出し、3日目は総合ディスカッションというスケジュールにしました。現在のスタイルの原型です。いろいろな改善案は出せたのですが、まとまりに欠ける印象がありました。この頃から循研の科研採択率は3割を超えるようになりました。
全体のまとまりを作るために申請書の良いところを明確にすることにしました。そのため、1日目は問題点の整理と改善案、2日目は良いところの整理と新しいアイディア出し、3日目は総合ディスカッションとしました。それぞれの整理はできたのですが、「問題点」と「良いところ」の関連づけがうまくできませんでした。循研の科研採択率は4割を超えました。
問題点と良いところを関連づけるため、1日目は問題点の抽出とまとめ(解決はしない)、2日目は良いところの抽出と「売り」のまとめ、3日目は「売り」を中心とした問題点の解決策を考えました。「売り」は申請書の良いところを突き詰めて考え、新しいアイディアも加えて作り出す「計画の柱」です。「売り」を決めることで、問題点と「売り」の関係やなぜ問題なのか、それを解決するにはどうしたら良いかが一気に見えるようになりました。循研の科研採択率は5割に達しました。
ほぼ前年度のスタイルを踏襲しましたが、私(青木)は出席しないことにしました。それまでは周りをうろうろして必要ならアドバイスしてやろうという姿勢でいたのですが。この年は例年のディスカッションに加えて循研ピアレビュー自体にどんな問題があり、どうやったら解決できるかも若手メンバーの間で話し合われました。その後も話し合いは継続していて、今回のピアレビューに反映されることでしょう。
当初から、循研ピアレビューの課題は不採択だった申請書1つでした。課題を提供することは申請者にとって、とても抵抗感を感じることと思います。それを乗り越える課題提供者の勇気と、その勇気に応えて全力を尽くす仲間の存在なくして循研ピアレビューは成立しません。そんなイベントが発展し続けていることが素晴らしいと私は思います。
申請者の努力と仲間の協力で、課題にした申請だけでなく参加メンバーの多くが科研費を獲得するようになりました。若手同士が研究の相談をしている姿もよく見るようになりました。この事実は、単なる申請書の書き方やコツを越えて、若手メンバーが科学者として大きく成長したことを物語っています。
試行錯誤を繰り返す中で循研ピアレビューは大きく発展しました。私が言い出したイベントではありますが、既に循研ピアレビューは私の指示ではなく、若手メンバー自身のイベントになったのだと思います。ある意味で私の存在は成長の阻害要因になっていたのかもしれないと反省もしています(ちょっとだけですが)。明日からの循研ピアレビュー2016には私は出席しませんが、若手メンバーが予想を超えた力を発揮してくれることが楽しみです。