久留米大学循環器病研究所の雑感

雑感

この「雑感」のページには、研究活動で感じたことや、循研方針の背後にある考えを不定期に掲載します。記事内容は循環器病研究所の公式見解でなく、職務に基づく私個人の考えとお受け取りください。

久留米大学 循環器病研究所 青木浩樹

研究分野のストークス分類(2018.9.26)

今回は、基礎研究や応用研究という分類について考えてみましょう。

従来、研究は基礎研究→ 応用研究→ 実用化の順に進むリニアモデルで捉えられてきました。これに対して、米国の科学技術政策研究者ドナルド・ストークスは研究の動機に着目し、基礎研究が必ずしも実用化を目指さないこと、また応用研究は基礎研究から実用化への単なる過程ではないことを指摘しました。

ストークスは研究を「根本原理の追求」と「用途(実用化)の考慮」という2つの異なる動機で捉え、各象限に対応する研究活動や研究者が実在することを示すために、著名な研究者の名前を各象限につけました(図)。純粋基礎研究であるボーア象限、純粋応用研究であるエジソン象限、用途を考慮した基礎研究であるパスツール象限がそれです。

中でも、応用研究が基礎研究から実用化への単なる過程ではないことを示した「パスツール象限」には大きな意義があります。「パスツール象限」は、用途と根本原理という2つの目的を同時追求することに意義がある研究分野の存在を示したのです。

ストークスの分類では左下の象限は名付けられていません。この象限には、調査研究や分類研究が該当します。それ自体は必ずしも原理の追求や直接的な実用化を意図しませんが、他の分野の基礎となる知見を得る研究分野です。疫学研究もこの分野と考えられます。図の「キーズ象限」は循環器系疫学研究の泰斗アンセル・キーズに因んで筆者(青木)が命名しました。

ストークス分類