循研での研究

科研費申請

科研費とは

広い意味で研究は人類が自分自身を含む世界を理解しようとする営みであり、循研で行う研究もその一端です。研究の成果は人類の共有財産であり、研究はよりよい明日を実現するための先行投資と考えることができます。その重要性をどこの国の政府も認識していて、我が国も例外ではありません。

我が国には、研究を促進するために「科学研究費助成事業(通称『科研費』または『科研』)」という制度があります。研究者は、実施したい研究内容を計画書にまとめて科研費申請書として提出します。科研費申請書は匿名の研究者により審査されランク付けされます。この方式は学術雑誌での査読と同様でピアレビューと呼ばれます。審査の結果、意義があると認められれば政府から研究費が支給され、申請書に記載した研究に使うことができます。

▲上に戻る

循研における科研費申請の取り組み

循研では全メンバーが科研費を申請します。科研費申請は年1回で10月末が締切りなので、循研メンバーは9月始めごろからそわそわして自分の研究計画やデータを見直して申請書作成に備えます。9月半ばになるとメンバー間で、「今年の科研どうする?」という話題が多くなり、9月後半には本格的に申請書作成期間に入ります。この期間はチームミーティングで他のメンバーのデータを見る目も変わります。チーム内では共通のテーマに沿ったプロジェクトが複数動いており、お互いのデータから新しいアイディアが生まれることも多いからです。

科研費の審査はなかなか厳しく、採択率の全国平均は25%〜30%程度、つまり3〜4人に1人の採択率です。循研では、循研メンバー自身がお互いの科研費申請書のピアレビューを行うイベント「循研ピアレビュー」があります(「循研の活動」参照)。また、日頃から総合的・戦略的な考え方をするよう務めています。その成果か、循研の科研費採択率は全国でもトップクラスです。不採択の場合は申請書を強化して翌年に再挑戦するので、多くの人は研究期間内に科研費を獲得することができ、中には複数回獲得する強者もいます。科研費に採択されれば、自分の裁量でその科研費を使うことができます。

▲上に戻る

科研費申請の目的

科研費を申請すると研究費を獲得できる可能性がありますが、目的はそれだけではありません。申請書を作成すること自体にも意味があります。科研費申請書は第一線の研究者から審査されるため、あやふやな計画では採択されません。採択を狙うことで申請書(研究計画)は磨かれていきます。申請書を作成する間に循研メンバーは、自分の研究プロジェクトの意義をより広く深く、実験計画をより具体的に考えるようになります。

研究をしていて陥りがちな誤りの1つは、実験結果が出てから結論や解釈を考えようとすることです。本来、実験は仮説が正しいか誤っているかを判断するものであり、解釈は結果が出る前から決まっていなければなりません。きちんとした研究計画には、予測どおりの結果や違う結果が得られた時の解釈まで織り込まれているので、このような誤りに陥ることがありません。

研究を進めていると目前の実験のことだけを考えてしまい、研究の全体像を考えることが少なくなります。特に実験がうまくいかない時は、結果を出すことだけに必死になってしまい、そもそも何のために実験しているのかを忘れてしまいがちです。見知らぬ土地を探検して道に迷うようなものです。そんな時、科研費申請できちんと考えて立てた研究計画は、考え方の拠り所となる地図です。なかなか結果が出ない時に実験をやり抜く力を与えてくれることもあれば、方向を変える勇気をくれることもあります。

▲上に戻る

問題発見・解決力のトレーニング

循研で科研申請に力を注ぐのは、問題発見・解決力のトレーニングを重視しているからです。きちんとした研究計画書を作るためには、重要な課題を明確にした上でそれを小さな課題に分割し、小さな課題を個別に解決することで大きな課題の解決を導く論理性が必要になります。予定期間内に課題を解決する具体的な計画能力と実行力も必要です。

循研では、論理的思考の第一歩は考えを書くことであり、また論理的思考が最も力を発揮するのは1つの課題を何人かで協力して解決しようとする時だと考えています。そのため循研では、1つの科研費申請書をメンバーが協力して検討する「循研ピアレビュー」を実施しています(「循研の活動」参照)。こうして循研では、科研費申請を問題発見・解決力をトレーニングする絶好の機会ととらえており非常に重視しています。

実は、研究計画書の組み立ては学術論文と同じです。計画段階では、まだ結果が出ていないので、背景、目的、意義の比重が高くなり、論文では結果の比重が高くなります。また研究を進めていると、発見されたことから新しい方向が見えることもよくあるので、結果が出る前後で結論や意義が変わることもあります。しかし、研究の出発点が変わることはなく、また新しい発見があったら計画もアップデートするので、研究計画書と論文の基本骨格は同じです。循研で研究計画の完成度を重視するのは、論文作成をサポートするためでもあります。

▲上に戻る