久留米大学循環器病研究所の雑感

雑感

この「雑感」のページには、研究活動で感じたことや、循研方針の背後にある考えを不定期に掲載します。記事内容は循環器病研究所の公式見解でなく、職務に基づく私個人の考えとお受け取りください。

久留米大学 循環器病研究所 青木浩樹

研究初心者の方へ:循研サポートチームの紹介(2021.8.30)

この文章を読んでくださっている皆さんは、研究経験をお持ちでしょうか?経験のない方でも研究に少しでも興味をお持ちでしょうか?今回は、研究にちょっと興味はあるけれどハードルが高いなと感じている方に循研サポートチームをご紹介します。

循研の特長の一つは充実したサポートチームを擁していることです。サポートチームの7人のメンバーはそれぞれが専門とする実験技術や研究業務のエキスパートです。サポートチームは、初心者の方が研究という知的冒険の旅に出発しゴールまで走り抜くことを支援するパートナーです(図表)。

 

図表210830

研究では手探り、つまり試行錯誤なしには新しい成果も成長も得られません。「今ないものを世の中に」を標榜し、新たな研究成果と人の成長を生みだす場を目指す循研(図表)としては試行錯誤をないがしろにはできません。ただ、研究初心者の試行錯誤には、避けて通れないものと避けられるものがあります。

研究とは謎への挑戦なので、答えを探るための試行錯誤を避けることはできません。一方、ルーティンの解析手法や研究の枠組みは普遍的で、その習得のために試行錯誤は避けることができます。避けられる試行錯誤を指して、英語では「You don't have to reinvent the wheel. 車輪をもう一度発明する必要はない」と表現します。

研究という冒険に乗り出し、走り続け、旅を終わるにはルーティンの解析手法という「車輪」を使いこなし、一定の枠組みにという「地図」に沿って研究を進める必要があります。このような「車輪」や「地図」の使いこなしを初心者に伝えるのがサポートチームの役目です。この役目を果たすために、サポートチーム自体も年々成長を遂げています。

もし研究をしたことがないなら、一生のうち一度は研究してみてください。サポートチームの支援を得て不必要な試行錯誤を避けることで、必要な試行錯誤に全力を集中することができるでしょう。そして、冒険の旅が終わった時に、皆さんは自分の中に秘められていた力に気づくことでしょう。その力は、一生にわたって使える知的体力です。

サポートチームが全力で支援するので、未経験の方でも心配することはありません。研究に興味を持ったら、循環器病研究所に是非ご一報ください。

思考フレームワーク「理解の構造」と研究の価値(2020.9.10)

皆さんは、「物事をどう理解しているか」を説明できるでしょうか?循研ピアレビュー2020循研HP#2_1+2

例えばホワイトボードを例に考えてみましょう。皆さんの多くはホワイトボードを使い理解していると思います。それでは、ホワイトボードを「どう理解しているか」を説明してみてください。どんな時に何のためにどうやって使うかを説明することは比較的簡単です。しかし、「ホワイトボードそのものが何であるか」を説明するのは意外と難しいのではないでしょうか。。我々はそういう説明をするトレーニングを受けていないのです。説明の一例を図に示します。クリック(タップ)して図全体をご覧ください。


研究申請書とは「理解できないものを理解できるようにする」ための計画書であり、論文とは「理解できなかったものが理解できた」ことを説明するものです。研究申請書や論文を書くのが難しいのは、内容は別にして「物事をどう理解しているか」を説明するのが難しいためだと思います。


循研では「物事をどう理解しているか」を説明する思考フレームワークとして「理解の構造」を作りました。このフレームワークでは、人間の認識や理解に関わらず存在する世界を示す「事実の平面」と、人間が理解した世界を示す「理解の平面」を考え、その2つの平面をつなぐことが理解であると定義します。そして、「事実の平面」にある物事の属性を認識し、属性を関連づけてひとまとまりにし、それを「理解の平面」に組み込むことで「事実の平面」と「理解の平面」をつなぐことができる(理解できる)と定義しました。

この思考フレームワークでは、発見によりどれだけ「理解の平面」が変化したかが研究の価値です。


循研では「理解の構造」を科研費申請から論文完成まで、研究活動のあらゆる場面で使うことで、論理思考のトレーニングをしています。このような経験から得られる論理的で柔軟な思考力は、研究、臨床を問わずプロフェッショナル・キャリアで重要な力になることと思います。

科研費の採択と不採択(2020.4.3)

文部科学省科学研究費の採択が4月1日に通知されました。
循研からは8つの課題が採択され、採択率は61.5%でした。
採択者については、久留米大学心臓・血管内科ホームページをご覧ください。

採択された皆さん、おめでとうございます。その努力と力量に敬意を表します。

不採択だった皆さん、全力で取り組んだ挙句の不採択でがっかりしていると思います。しかし気落ちすることはありません。昨年の申請時期にはお互いに相談する姿をしばしば見かけましたし、循研ピアレビューでは皆さんの力が最高に発揮されました。そんな日々の活動が循研の高い採択率に結びついたのです。採択された課題には皆さんの力が間違いなく反映されています。

不採択は残念ですが、恥じることではありません。課題の本質的な価値や研究者個人が否定されたわけでもありません。そもそも、科研費や研究成果は個人が自慢したり、優劣を競ったりするためのものではないはずです。その価値は研究者個人を離れ、研究領域や社会全体に何を提供できるかで決まるものでしょう。

万一恥じることがあるとすれば、不採択だった仲間や自分自身を下に見たり、自らの考えに閉じこもったりすることだと私は思います。もし不採択課題に足りないものがあったとすれば、それは仲間を信じて力を借りることだったのかもしれません。今年は不採択でも、仲間と協力して研究課題の価値を今一度問い直し、より高い価値を目指して次の機会を狙えば良いのです。

循研の皆さん、自分が取り組む研究の価値を信じ、仲間と自分自身を信じて新たな発見に挑戦してください。そこで培われた力は、社会の問題に立ち向かう医師という職業の基礎体力となるでしょう。循研はそんな皆さんに活躍と成長の場を提供し続けます。

IMG_3589_1

マトリックス型研究組織(2019.11.17)

今回は研究組織の体制について考えてみます。

かつての医局制度のもとで、医局研究室では多くの若い医師が研究に従事していました。そこでは、先輩から後輩に研究方法が伝承される徒弟制度で研究が行われていました。若い医師は、見よう見まねで研究する中で、言葉やマニュアルにならない豊かな「暗黙知※」として問題発見・解決力を身につけていったのです。

暗黙知は経験によってのみ伝えられるため、この体制では多くの労力や時間が必要でした。そこには言葉にならない価値があるため、私も「若い頃にはバッファーや電気泳動ゲルを自作したものさ」などと自分の過去の経験を語ってしまうのです。

現在、医学研究や医療が高度化し若い医師の「大学離れ」が進む中で、この研究体制を維持することは難しくなってきました。学ぶべき知識はどんどん増えるのに、使える時間や労力という資源は有限だからです。

しかし、研究をあきらめて医療経験や専門医取得だけに専念してしまうと、問題発見・解決力を身につけることは難しくなります。医療経験や専門医の勉強では既にわかっていることを学ぶのに対して、問題発見・解決力はわかっていないことを相手にするものだからです。研究をやめると病気の理解が進まないという、人類全体の問題もあります。

この問題を解決するために、循研では「マトリックス型研究組織」の体制を取っています。その要は、研究を主体的に進めるプロジェクト部門(研究班、研究者)と、研究方法を提供する機能部門(サポートチーム)の役割を分けた上で、双方が力を合わせて研究プロジェクトを遂行するという考え方です(『研究体制』図参照)。これは、限られた資源を効率よく使って研究成果を上げるためのデザインです。

 

マトリックス型研究所1

かつての研究体制では研究者個人の努力で方法を開発し習得していたのに対して、マトリックス型研究組織ではサポートチームが安定した研究方法を提供します。この体制により、より高度な研究を効率的に実施することができますが、ともすると研究がサポートチーム任せになってしまう恐れもあります(『研究体制の比較』表参照)。

マトリックス型研究所2

 

循研は『今ないものを世の中に』を標榜しており、「新たな研究成果」と「問題発見・解決力を持った人材」を世の中に送り出すための組織です。そして循研の調査研究では、問題・発見解決力を獲得するためには、「問題に主体的に取り組むこと(自律性)」と「試行錯誤」の2つが必須であることがわかっています。

サポートチーム任せの研究でも成果は上がるかも知れませんが、試行錯誤を人任せにする「名ばかり研究者」では問題・発見解決力を得ることはできず、本末転倒というものです。マトリックス型研究組織である循研が本来の機能を発揮するためには、研究者が主体的に研究プロジェクトに取り組む意識(プロジェクトオーナー意識)を持ち、試行錯誤することが必須です。

研究方法の習得やデータ取りは『理解の構造』の下部構造にあたります(『理解の構造』図参照)。かつての研究体制では、研究者はこの下部構造を作るために多くの資源を投入する必要がありました。それは大事な試行錯誤の機会でしたが、上部構造を作るための資源が不足する(論文を書く時間がなくなる)こともしばしばありました。

マトリックス型研究所3

 

マトリックス型研究組織では研究方法の再現性とデータ取りの効率が大幅に向上します。そのため研究者は、事実から様々な解釈を生み出し、適切に組み合わせて『理解の構造』を作るための論理的な試行錯誤により多くの資源を投入することができます。日々の研究活動の中で資源を投入する対象を、『理解の構造』の下部から上部にシフトさせることで、研究者は問題発見・解決力を獲得するとともに、より価値のある研究成果を生み出すことができます。

循研教授としての私の役割は、『今ないものを世の中に』を達成するためにマトリックス型研究組織をデザインし、適切に運用することだと考えています。

暗黙知と形式知(Wikipediaより)
暗黙知:経験的に使っているが簡単に言葉で説明できない知識
形式知:文章・図表・数式などによって説明・表現できる知識

循研ピアレビュー2019:プロジェクトの捉え方(2019.7.3)

2009年に循研ピアレビューを開始してから、循研メンバーは着実に力をつけてきました。その表れとして今年度の科研費採択率は70%を超えました。採択率の向上は素晴らしいことですが、それ自体が目的ではありません。

循研ピアレビューの目的は、自分の中に眠る力を発見し、最大限に伸ばすことです。それは、「問題」とは何かを追求し具体的な解決へと導く力です。この目的に沿って循研ピアレビューは進化を続けています。

循研ピアレビューでは、4つの観点(重要性、独創性、リアリティ、読みやすさ)で申請書を評価します。そしてプロジェクトの全体像を、「理解の構造」という一貫したフレームワークで捉えます。「評価」と「理解の構造」の関連づけが、この数年間のテーマです。循研ピアレビュー2019の手順.001

一昨年は、評価を理解の構造で整理しようとしました。プロジェクトの全体像を掴みづらかったことが反省点でした。昨年は、プロジェクト自体を理解の構造で整理しました。いきなり理解の構造に当てはめるのが難しく、評価しづらかったことが反省点でした。

今年は、4つの観点から「改善点」「強み」「売り」を抽出しつつ申請書を読み込みます。そして読み込んだプロジェクトを理解の構造で整理しなおし、その構造の中でプロジェクトと評価の対応を可視化することを目指します。

 

 

発見と発明のフレームワーク(2018.10.8)

前回の雑感では研究の動機を「根本原理の追求」と「用途の考慮」で考えるストークスの分類を紹介しました。研究成果として、前者は「発見」、後者は「発明」を目指すものと考えられます。医学研究は生命現象や病気の仕組みを解き明かすと同時に診断や治療への応用を意識しています。したがって医学研究は概ねパスツール象限に位置付けられます。

以前の記事に示した「理解の構造」は「発見」を記述する論理構造です。今回は「発明」まで考えに入れて「理解の構造」を発展させてみましょう(図)。

発明と発見のフレームワーク

さて、発明とはなんでしょうか?

特許法では発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されています。有体物であれ無体物であれ、発明は単なる頭の中の考えではなく具体的に存在するので、ここでは「理解の構造」のうち一番下の「データ・事実」レベルに置きましょう。

発明を構成するものは自然法則を利用した「要素技術・方法」の組み合わせです。これを下から二番目の「方法・解釈レベル」に置きましょう。

発明を実施した効果で課題の解決が得られれば発明は完成ですが、そう簡単にはいきません。生命現象や病気の理解が不十分なことが多いためです。

課題が解決されない場合は、発明を実施した効果を検討して課題が解決できない理由を明らかにし、新たな自然法則を発見する必要があります。

発見に基づいて要素技術・方法を組み合わせ、発明を実施して課題が解決できるかを検討します。これを繰り返して課題が解決され、社会に望ましい変化を起こすことができれば発明は完成です。

以上の考察から、多くの医学研究では発見と発明の同時追求が必要であり、パスツール象限に位置することが分かります。発明と発見の重みづけはプロジェクトの目的により異なるでしょう。

発見と発明を組み込んだフレームワークを図に示します。研究計画書や論文を作成する際に使ってみてください。参考に、発明を記述する代表的な文書である特許明細書の記載事項を示します。研究計画書や論文と対応づけてみると面白いでしょう。

 

研究分野のストークス分類(2018.9.26)

今回は、基礎研究や応用研究という分類について考えてみましょう。

従来、研究は基礎研究→ 応用研究→ 実用化の順に進むリニアモデルで捉えられてきました。これに対して、米国の科学技術政策研究者ドナルド・ストークスは研究の動機に着目し、基礎研究が必ずしも実用化を目指さないこと、また応用研究は基礎研究から実用化への単なる過程ではないことを指摘しました。

ストークスは研究を「根本原理の追求」と「用途(実用化)の考慮」という2つの異なる動機で捉え、各象限に対応する研究活動や研究者が実在することを示すために、著名な研究者の名前を各象限につけました(図)。純粋基礎研究であるボーア象限、純粋応用研究であるエジソン象限、用途を考慮した基礎研究であるパスツール象限がそれです。

中でも、応用研究が基礎研究から実用化への単なる過程ではないことを示した「パスツール象限」には大きな意義があります。「パスツール象限」は、用途と根本原理という2つの目的を同時追求することに意義がある研究分野の存在を示したのです。

ストークスの分類では左下の象限は名付けられていません。この象限には、調査研究や分類研究が該当します。それ自体は必ずしも原理の追求や直接的な実用化を意図しませんが、他の分野の基礎となる知見を得る研究分野です。疫学研究もこの分野と考えられます。図の「キーズ象限」は循環器系疫学研究の泰斗アンセル・キーズに因んで筆者(青木)が命名しました。

ストークス分類

「理解の構造」で見たiPS論文:検証可能な課題設定(2018.8.8)

循研では思考フレームワーク「理解の構造」を取り入れています。論理的な思考過程を8つのブロックで整理するシンプルなものです。今年は循研ピアレビューを「理解の構造」に沿って実施したところ、その使い方が今ひとつ分からないという意見が多くありました。未完成の科研申請書を題材としたため、「理解の構造」の使いこなしと申請書のいずれに問題があるのかが分かりにくかったことが一因と思います。

そこで、完成された論文を「理解の構造」で整理して見ます。題材は我が国が誇る山中伸弥先生の最初のiPS論文です(Cell 126, 663, 2006)。「理解の構造」で整理すると、この研究が緻密な論理に支えられていることがわかります(図)。

理解の構造_iPS

体細胞をES細胞と融合すると体細胞核が初期化されることは当時から知られていましたが、そのメカニズムは不明でした。「体細胞の初期化メカニズムの謎」を検証可能な課題にするために、論文では大胆な仮定を置いています。それは、初期化因子は遺伝子でコードされた数種のタンパクの組み合わせであり、初期化された細胞はES細胞と似た性質を持つという仮定です。

これらの仮定が正しいかどうかは、実験してみなければわかりません。初期化因子は脂質のような代謝産物かもしれませんし、単なる組み合わせではなく比率や作用する順番が重要かもしれません。数百種類の物質の混合かもしれません。初期化された細胞も、ES細胞とは全く違う性質でありながら全能性を獲得するかも知れません。解明される前の謎には無限の可能性があり、全てを検証するなら無限の試行錯誤が必要で解決は事実上困難でしょう。

論文には検証されなかったことや解決を導かなかった検証は記載されないので、どのようにこれらの仮定が置かれたのか、勝算がどの程度あったのかは分かりません。一つ確かなのは、これらの仮定を置けば正しいにせよ誤りにせよ、検証が可能になることです。

検証を実施すれば謎が解けるかもしれませんし、解けなくても知識のネットワークは広がります。謎を謎のままにせず検証可能な課題にすることで「体細胞の初期化メカニズム解明」という世紀の大発見が成し遂げられたのだと思います。

このiPS論文には、上記の他にも課題検証に適したエレガントな実験方法や、事実の解釈から課題解決を導く巧みな論理が記載されています。是非、この美しい論文を読んで「理解の構造」とどのように対応するかを見てください。課題発見や解決のヒントが得られるかもしれません。

「理解の構造」は論文の構造を基本にしています。使いこなせば論文作成のガイドになり、研究に限らず様々な問題を整理し課題を解決するためのツールにもなるでしょう。

 

新しい循研ピアレビュー(2018.7.26)

循研ピアレビューは参加者の工夫により年々進化を重ねています。その成果は著しく、循研の今年度の科研採択率は57%と過去最高でした。採択率の向上は循研メンバーが問題発見・解決力を身につけてきたことを反映しています。長期的にはその問題発見・解決力こそが重要であると循研では考えています。

第10回となる今回は「理解の構造」によるフレームワークを全面的に取り入れます。フレームワーク思考法は問題への取り組みを、「整理」と「本質を考えること」に分け、整理の方法(フレームワーク)を揃える考え方です(前回の記事参照)。問題の整理方法を揃えることにはいくつかのメリットがあります。まず、いつも同じ方法を使うことで、整理が上手くなります。すると、より早く論理的に整理できるようになり悩むことが少なくなるため、問題の本質を考える余裕が生まれます。仲間と同じ整理方法を使うことでコミュニケーションが円滑になり、協力もしやすくなります。

今回使うフレームワーク「理解の構造」は、「人間の理解とは知識のネットワークである」という考えに基づいています。

「理解する」とは知識のネットワークができること

疾病を含めて自然界の事実は、人間が理解できてもできなくても変わりません。疾病を理解できないのは、疾病で起こる事実がわからなかったり解釈できなかったりするため、解釈同士をつなげて知識ネットワークを作れないからであると考えます。事実を発見して解釈し、既にある知識とつなげることで疾病が理解できるようになります。

「理解の構造」では事実発見から理解に至るまでを次の4段階に分けます。

 事実:人間の理解に関わらず変わらないもの
 解釈:事実と直結した概念
 解決:解釈同士が連結したもの
 理解:新知識と従来の知識がネットワークになったもの

今回は申請書を「理解の構造」で整理し、その売り、強み、弱みを明らかにしていきます。この方法は、従来の循研ピアレビューの手順(1. 問題点の洗い出し、2. 強みの抽出、3. 売りの絞り込み、4. 全体像の構築)を逆転した形です。双方向性の考え方をすることで、より問題の本質に近づくことを目指します。

「理解の構造」は、論文の構造そのものでもあります。循研ピアレビューに「理解の構造」を取り入れて、研究の最初からそれ意識することで計画、実施、論文作成を一元的に捉えることが可能になり、研究の全体像がより把握しやすくなります。また研究中に何回も理解の構造をブラッシュアップすることにより、問題発見・解決力が飛躍的に向上すると期待されます。

理解の構造:申請書と論文

問題解決フレームワークと自転車(2017.8.31)

複雑な問題は一人では解決できず、何人かで相談することはよくあると思います。何人かで考えることは様々な視点を得る良い手段です。しかし、メンバーの視点が様々であるため焦点がボケたり方向を見失うことがありますし、メンバー同士の誤解のためかえって解決から遠ざかってしまうこともあります。だからと言って他のメンバーと違う意見を控えてしまっては、みんなで考える意味がありません。

そんな時には、考えに一定の型(フレームワーク)を与えることが有効です。フレームワークは「考え」を入れ物(フレームワーク)と中身に分け、入れ物は統一して混乱を避けつつ中身の多様性を確保する方法です。

フレームワークは文字通り「考え方の型」であり、考え方を揃えることで中身に集中するためのものです。考えの抜けを防ぐためのチェックリストでもあります。また、「今ここを話してるよね」「今からここの検討だよね」と確認するためのコミュニケーション・ツールとして使うこともできます。

試しにネットで「問題解決フレームワーク」を検索してみるとたくさんの種類が出てきます。これは、やりたいことや問題の性質により適切な考え方が違うからです。

例えて言うならフレームワークは自転車のようなものです。自転車を使うと歩くより速く、より遠くまで行けますし、荷物を運ぶこともできます。しかし自転車だけで力を発揮することはできません。目的に合わない自転車は不便ですし、場合によってはお荷物になることもあります。乗り手の技量も重要です。

自転車と同様にフレームワークの使いこなしにも練習が必要です。そのためには、集中して何回も繰り返すことが大切です。皆さんも自転車の練習で転んだり擦りむいたりしたかも知れません。しかし練習すれば自転車に乗れるようになります。

自転車に乗れたらそこで終わりではありません。自転車に乗ることが自然になってきたらもっと遠くに行きたくなり、乗るのがさらに上手になります。

フレームワークも一旦使えるようになると、皆さんの考え方の一部になり、なぜ使えなかったのかも分からなくなるぐらいになります。そして研究以外の問題でも自然にフレームワークを使うようになり、ますます上手に使えるようになります。

研究とは考え方の集中的な練習です。研究を経験するということは、この一生使い成長し続ける力を手にすることだと私は思います。

アーカイブを見る